2016年度活動方針

2016年度の活動について

 

新年度の活動方針として、本年は事務局長としての所信ということで、五点について申し上げます。

まず一つめは、「プロジェクトチーム」による、検証・提言活動です。二つめは、次回交流集会を瀬戸内三園を中心に開催したいということ。三つめは、「神美知宏・谺雄二人権賞」(仮称)の設置。四つめに、家族裁判訴訟、特別法廷問題への市民学会としての取り組み、そして事務局体制の充実ということでございます。

それでは、一点ずつ、申し上げさせていただきます。

 

1 「プロジェクトチーム」による、検証・提言活動

活動報告で述べられたとおり、市民学会の日常活動として、「プロジェクトチーム」による検証・提言活動をスタートさせてまいりたいと思います。

市民学会は、共同代表と運営委員による組織委員会というものを構成しておりますが、そこには、さまざまな分野や地域でハンセン病問題に取り組んでいる人たちが集まっております。そこでまず組織委員会メンバーそれぞれが、自分の関わるプロジェクトを選択し、今後の進め方などについて検討・整理を行い、その結果を会員の皆さまに明らかにし、次に会員の皆さまにも、関心を持たれるプロジェクトに、積極的に参画していただけるよう環境を整えてまいりたいと思います。市民学会が「場」を開くことで、人と人、課題と課題が結ばれ、一人ひとりの力が、ハンセン病問題の全面解決に向けた大きな力となることを目指してまいりたいと思います。市民学会が、一人でもハンセン病問題に取り組める、「場」になっていきたいと思います。

そこで、現在、課題としてあげられておりますことは、まず「教育プロジェクト」。ハンセン病問題の継承には、今まで以上に学校教育の担う役割が大きくなりますが、 学校現場でその役割を担う教師が誕生していくことは、なかなか大変なことであると思います。そのことに市民学会が寄与する方法を探り、実践していかなければならないと思います。

次に「啓発プロジェクト」。特に行政が行っている啓発活動の実態を把握し、パンフレットの内容などその問題点を検証し、市民の立場から改善などを求めていく取り組みは急務と言えます。また、国立ハンセン病資料館をはじめ、現在各療養所で開設される「資料館」にも、市民学会として注目し、担当者との対話を図っていくなど、連携を密にししつかりと関心を寄せていくことが大切であると思います。

次に運動の国際的連帯を目指す「国際連帯プロジェクト」。昨年の東京集会でも分科会のテーマといたしましたが、台湾・韓国の他に中国との連帯も視野に入れ、取り組みをはじめていかなければならないと思います。

そして「検証プロジェクト」。検証活動は、市民学会の柱の一つですが、単なる資料研究ではなく、再発防止の力となる検証作業を行っていかねばならないと思います。具体的テーマとしては、後に触れる「特別法廷問題」や「 骨格標本問題」など、取り上げなければならない課題は多いと思います。

 次に若手研究者育成を目指す「研究支援プロジェクト」。若いハンセン病問題研究者を育成する仕組の必要性から、 奨励賞の設置や年報に論文を掲載する等を通して、若いハンセン病研究者が大学・研究所などに採用され、ハンセン病問題研究が継承される循環の道を作ることが求められています。

さらに「在園保障プロジェクト」。最後の一人までどのように、人として尊厳ある生活を保障できるのかということを、しっかりと提起できる取り組みが必要です。市民学会としても議論を重ねてきた人権擁護委員会の提案もその一つですが、プロジェクトチームにおいて、さら課題を明らかにし、提案をしていかなければならないと思います。

そして「社会生活者支援プロジェクト(退所者・家族支援)」。これは、「 在園保障プロジェクト」と両輪で進めていかなければならないプロジェクトで、家族訴訟が起こされた今、訴訟支援の問題も含め取り組んでいかなければならない大きな課題と言えます。

以上、組織委員会内で現在あげられている課題をご紹介しましたが、いずれも大きな課題ですので、今後、どのように切り口を定め、またプロジェクトという形でどう取り組みを進めるのか、また新たな課題も含め、会員の皆さまのご意見をいただきながら、画餅にすることだけにはならないように、しつかりとすすめてまいりたいと思います。

 

2 次回の交流集会

次に、次回の交流集会でありますが、現在、瀬戸内三園を中心に開催すべく、準備を進めております。三園の自治会長や地元の市民運動にかかわる方々には、大変なご苦労をおかけすることになりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

瀬戸内三園と一口に申しましても、離島であることによる生活に直結した問題、地域との共生の問題、三園の世界遺産登録という具体的取り組みなど、当面している課題は、個別でかつ重大なものです。市民学会を療養所で開催することは、単なる会場をお借りするということではありません。安危を共同するという言葉がありますが、まず人と出会い、課題を知り、それらの課題をどのようにともに克服していくことができるのかを、自らの課題として受け止め、療養所の内と外でともに考えていく、大きな機縁とさせていただかなければならないと考えております。今後、各自治会や地元で取り組みを行っている人たちと、しっかりと対話をしながら、テーマやプログラムを練り上げていきたいと思います。

 

3 「神美知宏・谺雄二人権賞」(仮称)の設置

神美知宏さんが亡くなられたあと、ご家族から市民学会に篤志をいただいたことは、昨年、この場で遠藤事務局長より報告させていただき、有益な使い方を検討するとお伝えいたしました。

そのことを組織委員会で検討した結果、「プロジェクト」チームによる取り組みの中でも申し上げましたが、若手の研究者の育成を主要な目的として、研究や意義のある活動を奨励する賞を作るということになりました。他にも篤志を募り、「神美知宏・谺雄二人権賞」を設置し、毎年、告知期間を設け自薦他薦をしていただいた上で、選考委員会が選考をして受賞者を決定するということにしたいと思います。早速、新年度から実施いたしたく、準備に入っております。詳細につきましては、もうしばらくお時間をいただき公表させていただきます。

ハンセン病市民学会の共同代表でもあったお二人のお名前とその活動を糧とし、ハンセン病問題に取り組む若手研究者にとっても栄誉となるような賞に育てていきたいと考えております。

 

4 家族裁判訴訟、特別法廷問題への市民学会としての取り組み

ハンセン病問題をめぐる最近の大きな出来事として、家族裁判という大きな裁判が提訴されたことと、また最高裁が特別法廷が被告人の人権を大きく損なったことへ不十分ながら謝罪をしたということがあります。これらのことは、ハンセン病隔離政策によって被害当事者の受けた苦痛に、社会がまた目を向けるきっかともなっております。

しかし、特別法廷に対する最高裁の謝罪は極めて遅きに失し、かつ人権の砦であるべき裁判所が自ら行った人権侵害に対して、真摯に目を向けたとは思えないものでした。回復者の中からは怒りの声があげられています。

ハンセン病市民学会は、これまでもハンセン病市民学会という独自のスタンスから幾つもの声明を出してきました。本来ならば、本日、声明案を皆様に提案をし、ご賛同をいただくべきところですが、もうすこしお時間をいただき、これまで公表された見解なども受け止め、市民学会の名前で遠くないうちに、声明を発表させていただきたいと思います。

次に家族訴訟についてでありますが、このことには、市民学会の交流集会が開かれるたびに毎年行ってきた、家族部会の活動も大きな役割を果たしているのではないかと思います。人の前に出ることさえ躊躇された方たちが、皆と励まし合い、語り合う仲間を得ながら、訴訟という大きな節目を迎えられたのです。中心となって取り組んでこられた方に、敬意を表するとともに、私たちの活動の中で種が播かれ芽が育った家族の人たちの活動に向き合い、これからも、家族の問題に対して、市民学会として何ができるかを真剣に考えていきたいと思います。

そしてこの裁判は、ハンセン病問題の当事者とはいったい誰なのかということを、厳しく問うてくるものです。家族を直接傷つけたのは、私たち市民一人ひとりです。そこから目をそらさず、隔離されてきたもの、隔離してきたものが共に解放される道筋を明らかにする裁判であると、私は受け止めております。市民学会として、極力情報を収集し、支援の輪を広げていけるよう、取り組んでまいりたいと思います。

 

5 事務局の体制と取り組みについて

最後に、事務局の体制と取り組みについて申し上げます。

本会は発足以来11年にわたって熊本学園大学遠藤研究室に事務所をおいてまいりましたが、昨年の総会において決定いただいたとおり、事務所を大阪市内に移転することとなり、このほど、大阪市港区波除4丁目137 HRCビル3階に新事務所を開設することとなりました。遠藤事務局長はじめ、熊本事務局の皆さまには、少ない人数で、多岐にわたる事務局業務を長きにわたり担っていただいたこと、大変なご苦労であったと、あらためて感謝の意を表させていただきます。

さて、大阪移転にあたっては、事務局体制についても大幅な刷新を図ることとなりました。事務局に携わる少数の人に過剰な負担がかからないよう、事務局を構成する人の数を増やし、規約にあたらしく、会計、書記、事務局員という役職が位置づけられたことを活かし、事務局メンバーが役割を分担し、かつ責任の所在を明確にしながらも、さまざまな意見を出し合い、硬直化せずいつも新しい発想が出てくるような、事務局運営につとめてまいりたいと思います。

また、今回事務局を担う関西という地域は、現在は療養所のない地域ですが、かつては、室戸台風で壊滅し、邑久光明園に生まれ変わった「外島保養院」が存在し、現在も瀬戸内三園との交流は特に深くなされております。そして、退所者の方が大変多い地域であり、ハンセン病問題への取り組みは、他の人権問題への取り組み同様に、市民レベルでも活発に行われてきたところと言ってよいと思います。そのような地域の取り組みの持つ力を、市民学会の力とさせていただくことも、強く意識していきたいことの一つです。

そういうなかで、特に事務局の業務として力を入れていきたいと思いますことは、ハンセン病問題に関するできるだけ多くの情報を収集し、それを会員の皆さまをはじめ、ハンセン病問題に取り組む人たちに発信・提供していくということでございます。これまでの『ニュースレター』、メールニュース、ホームページでの発信に加え、SNSなども活用し、ハンセン病問題に関する情報センターとしての役割も担っていければと考えております。そのためには、会員の皆さまのご協力が不可欠であります。どのようなかたちでも構いませんので、事務局にさまざまな情報をお寄せいただけますようお願いいたします。

もうひとつ、事務局移転を機縁として、事務局が中心となって準備をすすめている事業についてご報告いたします。さきほど、地域の力を活かすと申しましたが、大阪には、人権問題の啓発活動の中核を担ってきた、大阪人権博物館(リバティおおさか)という施設がございますが、このたび、リバティおおさかと共に主催をし、ハンセン病問題のこれまでを見つめ、これからを展望する企画展を開催することになりました。リバティおおさかが所有するハンセン病問題に関する、多数の原資料さらに、近隣の療養所などにも資料の提供などご協力をお願いし、多くの市民の方にハンセン病問題について触れていただく機会を提供させていただきたいと思っております。企画展開催期間は、914日から1126日までの予定で、期間中の108日にはシンポジウムの開催を予定しております。またホームページやニュースでご案内をさせていただきますので、ご来場いただければ幸いです。

以上、雑駁ではございますが、新年度のハンセン病市民学会の活動方針に変えさせていただきます。