ハンセン病市民学会2018年度活動方針
1 「プロジェクトチーム」(PT)による検証・提言・フォローアップ活動
ならびに「ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」の開催について 別掲
昨年度まで、標記活動を実動させるべく組織委員会内で準備をしてまいりましたが、今年度から別掲の要領で取り組みをスタートさせることになりました。
一人でも多くの会員の皆さまに、直接ご参画いただきたいと思っております。
2 交流集会in宮古・八重山(仮)について
昨年度の活動方針において述べましたとおり、2年度にわたって沖縄で交流集会を開催するという基本方針のもと、現在、宮古島ならびに石垣島など八重山地域での開催に向けて、準備に入っております。ただ、現地実行委員会の構成、集会の形態などこれから固めていかなければならない大きな課題に直面している状況です。
しかし、退所者をめぐる状況、家族をめぐる状況、南静園のおかれている状況など地域によって課題は個別かつ具体的であることを思ったとき、これまでの交流集会の形態とは多少異なった形になったとしても、宮古・八重山集会をぜひ実現させたいと考えております。
3 「神美知宏・谺雄二記念人権賞」について
昨年の交流集会会場においても多くの指定カンパをいただいた「神美知宏・谺雄二記念人権賞」ですが、本年度もさらに周知を徹底し公募を始め、意義ある賞にしてまいりたいと思います。
4 家族訴訟取り組み支援など、ハンセン病問題をめぐる諸課題への取り組みについて
家族裁判支援につきましては、公正な判決求める署名活動の推進や、ニュースレター、HP、SNSを利用した情報発信により力を注いでまいります。
また、これまで市民学会として力を入れてまいりました、特別法廷問題、国際連帯に向けた取り組みなども、PTによる活動に場を移し、さらに直接的に取り組んでまいりたいと思います。
5 語り部問題を中心とする「伝承・継承」に関するアンケート調査に基づく取り組み
昨年度実施した標記調査は、これからのハンセン病問題をめぐる特に啓発・教育の分野での大きな課題をあぶりだすものであると受け止めます。今年度は、この調査から見えてきたものをさらに分析し、市民学会とし取り組むことができることを確かめ、行動に移してまいります。
6 事務局としての取り組みについて
①情報発信の充実
『年報』、「ニュースレター」、メールニュースの発行発信、リニューアルしたホームページのリアルタイムな更新、ソーシャルネットワークサービスなどによる情報発信の充実に、さらに力を入れてまいります。
②財政の安定化
市民学会の財政状況は、極めて厳しい状況にあります。新会員の増加、未収の年会費の払い込みのお願い、カンパのお願いなどのほか、さらなる財政安定に向けた取り組みを行ってまいります。
以上、2018年度活動方針案とさせていただきます。
活動方針 別掲分
「プロジェクトチーム」(PT)による検証・提言・フォローアップ活動
ならびに「ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」の開催について
市民学会は、発足以来、活動の柱として「検証」「提言」「交流」を掲げてきましたが、その検証・提言活動の中核として、また、ハンセン病問題の全面解決に向けてなされる様々な取り組みをフォローアップする活動を、昨年度までの準備期間を経て、今年度から実動させてまいります。さらに、その活動の一環として、年に一度、交流集会とは別に、「ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」を開催いたします。
ハンセン病問題をめぐる待ったなしの状況の中で、様々な立場の方が共通の課題について日常的に向き合い意見交換を行うことで、課題の深化と、実践力の創出が期待されます。またML上ではありますが、対話の場を開き続けることで、人と人、課題と課題が結ばれ、一人ひとりの力が、ハンセン病問題の全面解決に向けた大きな力となることを目指してまいりたいと思います。会員お一人おひとりの参画をこころよりお待ちいたします。
なお、それぞれのPT・グループに、運営の中核となるチーフと、チーフをサポートするアシストを置くこととし、その他の市民学会の委員も、かならずどこかのPTに属し、中心的役割を担うものとさせていただきます。
取り組みの概要は次のとおりです。
①立ち上げるPTと主な課題 チーフ・アシスト
PTは、これまでもご報告してきたとおり7チームの立ち上げを予定しているが、
当面それらを4つのグループに編成し、取り組みを行っていく。現状では、準備段階のため、PT・グループの課題整理の仕方などが統一できていないが、このまま提案させていただく。
Aグループ 「教育プロジェクト」「啓発・歴史伝承プロジェクト」
・ハンセン病問題が私たちに与えた貴重な経験を今後も継承していくためには、学校教育の場で取り上げることは大切なことである。その中で、ハンセン病問題を扱う学校教育での危うさ(福岡の事件)を一方で考えたとき、多くの教職員が療養所を訪れ研修しているが、そのハンセン病問題学習によって、学校や教職員の何が変わったのか、というところまで検証していく必要があるのではないか。教えるということが自らも学ぶということと結びつかないと、人権教育は建前の世界にとどまり、学校が変わらないままになってしまうおそれがある。
・差別に加担してきた一方の当事者としての「市民の責任」を明らかにする必要がある。たんに国策によってということだけではなく、加担者として市民を駆り立てるものは何か。過去の問題としてだけでなく、現状としての市民を対象とした意識調査も不十分だ。
・医療従事者(専門家)への啓発も必要。
・設定の仕方次第では、課題がひろがりすぎる心配もある。
・さまざまな差別の横のつながりからも学ぶことも大きい。水俣病にしても福島原発から漏れた放射能にしても「ウツル」ことへの恐れが「防御と排除」を引き起こしたことがある。同時に被害当事者の中にも「スリコミ」があることも併せて考えるべき問題である。
チーフ・遠藤隆久共同代表 アシスト・奥田均運営委員
Bグループ 「国際連帯プロジェクト」
国際連帯に向けての市民学会の取り組みは、従来ソロクト・楽生院訴訟を通じての、東アジアにおいてハンセン病問題にかかわる人たちの連帯を深めることを課題としてきたが、今後は、視野を広く世界に広げて、WHOにおける取組みの状況やインドネシア、タイ、ミャンマーあるいは南米等における医療、福祉、人権の状況と課題とを把握して、情報として共有するとともに、市民学会として果たすべき役割を明らかにしていくこととしたい。なお、引き続き、東アジアにおける連帯の強化にも努めていく。
チーフ・和泉眞藏共同代表 アシスト・内藤雅義運営委員
Cグループ 「検証プロジェクト」「研究支援プロジェクト」
・「検証プロジェクト」
検証プロジェクトの課題として、以下の4つに取り組むことにする。
1 最高裁判所による「特別法廷」調査報告の検証
最高裁判所による「特別法廷」調査報告には、画期的な側面もあるものの、多くの限界が認められる。その問題点を明らかにし、「菊池事件」再審に向けての活動と関連しての市民学会総会における決議提言へと結びつけていきたい。
具体的な取り組みとしては、10月20日に岡山市で開催が予定されている、第1回「ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」において、広く憲法、刑事法の研究者に参加を呼び掛けて、「最高裁判所の特別法廷問題の検証結果を検証する」シンポジウムを開催することとしている。その結果を踏まえて、市民学会としての提言をまとめるとともに、菊池事件再審に向けての市民学会での総会決議への展望を明らかにしていく計画である。
2 無らい県運動における住民の加担構造についての検証
無らい県運動については、様々な視点から分析がなされ始めているが、善意の民衆が患者やその家族を地域から排除するにいたった構造を住民の側から分析、検証する作業は十分になされたとは言い難い。
現在、熊本地裁で継続しているいわゆる「ハンセン病家族訴訟」では、この点が大きな争点となっており、戦前・戦後における国の無らい県運動に関する政策が、いかにして、住民を加害者集団へと結成させるに至ったのかということを、沖縄での嵐山事件、熊本での黒髪校事件等を手がかりに解明していくこととしたい。
3 救らい思想についての検証
我が国のハンセン病隔離政策を推進した原動力となったともいえる、救らい思想の問題は、十分には解明されておらず、市民学会で検証すべき、重要なテーマの一つである。
この問題を次の3つの視点から明らかにしていきたいと考えている。
第1は、光田イズムの総合的分析である。
単に誤りを犯したという視点だけでなく、光田の考えが入所者の多くに支持さ
れるに至った理由にまで立入った分析が必要である。
第2は、宗教者における救らい思想の分析・検証である。
光田イズムを支えた宗教者たちの動機や教義との関連を明らかにしていく必要がある。
第3は、救らい思想を医療の面、即ち公衆衛生論における倫理の側面から分析す
るということである。
こうした視点は、法学的には、公共の福祉による人権制限の是非の問題にも関連
して若干の考察はなされているが、公衆衛生論においては、倫理的な検討課題としては、殆ど認識されていないように思われる。是非とも、検証プロジェクトの課題として、長期的に取り組んでいきたい。
4 資料館問題の検証
国立ハンセン病資料館の運営主体の問題及び各療養所における資料館の運営、展
示のあり方について検証する。
・「研究支援プロジェクト」
研究支援プロジェクトでは、ハンセン病問題の検証と提言に資する研究を支援することを目的とした活動を行う。本年度はその第一歩として、以下の課題に取り組む。
課題:国内のハンセン病研究についての全体状況の把握
ハンセン病についての研究は、国内外において、病態解明などを目的とする医学的研究から、歴史研究や人権問題としての研究まで、多種多様な学問領域で広く行われている。その中には、市民学会の目指すハンセン病問題の真相究明や差別・偏見の解消に直接間接に資するものもあるはずであるが、市民学会では、ハンセン病研究の全体状況を把握できていない。そのため、まずは国内の研究に限定して、可能な限り広い範囲の学問領域で行われている研究についての情報を総合的に収集する。
具体的には、当プロジェクトに属する会員が分担して、学術文献データベース等
を用いた文献検索を行い、学術図書および研究論文のリストを作成する。
具体的な手順:
以下の手順によって行う。必要な協議は原則としてメーリングリスト上で行う。
① 学問領域ごとの担当者の決定
・A医学・自然科学系、B人文・社会科学系、あるいはさらに細分化された区分(科研費の審査区分表等)に基づいて、担当者を決定する。
② 検索に用いる文献データベース等の選定
・候補となる文献データベースをリストアップする。
・原則として、担当者が所属機関等を通じて追加費用なしで利用できるデータベースとする。
・可能な限り広い領域をカバーできるようにし、不足する領域についての対応策を検討する。
③ 情報収集のための共通のフォーマットの設定
・収集すべき年代(例:1970年以降、2000年以降、など)を決定する。
・データベースによって様式等が異なるため、共通のフォーマットを設定する。
(以下は、たたき台の案。エクセルで作成する)
→図書:著者名、標題、出版社、刊行年
→論文:著者名、標題、掲載誌(掲載年、巻・号・最初と最後のページ)、
抄録(入手可能な場合)
④ 文献検索とリスト作成
・概ね2カ月を目処に作業し、メーリングリスト上でデータの共有を行う(このリストは公開された情報であり、個人情報保護等の問題はないと思われる)
チーフ・内田博文共同代表 アシスト・徳田靖之共同代表、宮坂道夫運営委員
Dグループ 「在園保障プロジェクト」
「社会生活者支援プロジェクト(退所者・非入所者・家族)」
・「在園保障プロジェクト」
現在の在園保障において、市民学会におけるプロジェクトとして、取り上げるべき課題として、医師確保問題、入所者の減少による園内の統廃合、将来構想問題、人権擁護委員会等が議論された。いずれも統一交渉団で議論している課題であるが、ハンセン病市民学会として、今後とも関心を寄せていくべきである。ただ、プロジェクトチームとしては、人権擁護委員会が、市民学会が提起・議論したことでもあり、各園の状況を把握して、底での課題を議論していこうと言うことになった。
チーフ・内藤雅義運営委員 アシスト・森和男共同代表
・「社会生活者支援プロジェクト(退所者・非入所者・家族支援)」
プロジェクト内容について
退所者・非入所者問題では、回復者の社会内における医療、介護問題が議論された。ハンセン病後遺症と偏見差別により、スティグマや周囲からの孤立した状態の中で高齢化を迎えている。これらの問題については、来年の沖縄での市民学会でも議論がなされるので、そこでの議論を踏まえることになるが、プロジェクトチームとしては、各地の相談体制の状況把握とその充実に焦点を当てたい。首都圏、近畿、沖縄などの参加者を得て、調査に基づいた意見交換をする機会が持てたら良いと考えている。
次に、家族支援問題については、病歴者と家族との関係回復をどう進めるかを考えたい。
具体的には、療養所のケースワーカーとの連携により、家族との連絡を図ったり、あるいは家族が園を訪問して、相互の理解と関係回復に向けて市民が何ができるのかを考えたい。
チーフ・内藤雅義運営委員 アシスト・黄光男運営委員
② PT・グループの運営方法 会員の参加方法
チーフ、アシストが中心となり、主にメーリングリストを用いた運営を行う。会員の参加は、ホームページ上に設置するフォームから登録を受け付ける。
③ 検証・研究成果、提言などの発表
ホームページの中に、各PTのコーナーを設け適宜公表していく。市民学会の発行物への掲載も今後検討していく。提言などは、必要に応じ、関係者に直接届けることも積極的に行っていく。
④ 研究集会の開催
年に一回、本取り組みの一環として、市民学会の主催もしくは、他の団体との共催などにより、中心テーマを設定した「ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」を開催する。また、その日程内で、短時間であってもグループごとの研究会の時間や、交流・意見交換の場を設けていく。第1回開催案は以下のとおり。
「第1回ハンセン病問題の全面解決に向けた研究集会」開催要項
日 時 2018年10月20日(土) 13時開会
場 所 岡山弁護士会館 (岡山市北区南方1丁目8−29)
内 容
・シンポジウム
テーマ 「最高裁判所の特別法廷問題の検証結果を検証する」
憲法・刑事法の研究者などにも参加を呼びかけ実施する
担 当 検証プロジェクトチーム
共 催 岡山弁護士会(予定)
・研究会
グループ、PTに分かれて実施
・交流会
主 催 ハンセン病市民学会
上記は現時点での案です。内容の詳細、参加方法などは、追って、ニュースレター、メールニュースやホームページ上などでお知らせいたします。
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